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美しき国 [sovaの図書室]

その国は、どこまでも美しく輝いていた。

大統領は悩んでいた。ありとあらゆるエネルギー資源を食いつぶしてきた我が国には、もはや一部の国民の生活を賄う程度の貯えしか残っていなかったのだ。彼はこの国の豊かな自然が大好きだった。他国にもさんざん自慢してきた。それゆえにエネルギー不足に悩む貧困国、そんなレッテルを何よりも恐れた。一言で言えば体裁を気にする小心な見栄っ張りだったのだ。

会議場ではエネルギー確保の議論が日毎行われていた。今日も目新しい解決策が出ず、議長が閉廷の挨拶をしようと口を開きかけたその時、ある一人の科学者がおそるおそる手をあげた。「まだ思考中の段階なのですが、人間の喜怒哀楽の感情を抽出してエネルギーに変換出来そうなのです。わたくしの計算上、この新しいエネルギーは、自然界への影響も出ないと思われます」。居眠りをしていた大統領が目を開けた。「よし、君にまかせてみよう」。さっそく中央に各分野のエキスパートが集められ、研究所が設置された。それと同時に、なぜか生まれたばかりの赤ん坊と、処刑間近の死刑囚が大勢招集された。夕闇に包まれた研究所には、どこからともなく飛んで来る、夥しい数の烏が乱舞し、旋回していた。そうして夜になるとそこから、蜘蛛が糸を吐くように、細く、長く、獣のような悲鳴が聞こえた。朝になるころには、微かに何かが焦げるような、不吉な匂いが辺りに漂った。匂いは日に日に強くなり、風に乗って、近隣の窓をべったりと撫でていった。ある日、それは、完成した。

「もう、帰ろうよ」。ベンチに座っていた母親は、ふと目を上げる。夕焼けに染まった我が子の柔らかい髪が風にゆれる。「そうね。帰りましょう」。花々の香りでむせかえる公園を出ると、すぐに巨大なビル群に囲まれた大通りに出た。カラフルな車の大群が気持ちよさ気に、右へ左へと走り抜けていく。少し前を歩いていく小さな姿を見つめながら、ぼんやりとした頭で彼女は考える。そういえばあの日から、うちの子はあまり笑わなくなったわ。

今日もこの国では、空も海も野も、美しく輝いている。

 

※2年前に公募に出した落選作で~す。コワイ童話的な感覚で書きました。

当時の総理がお気に入りだった「美しい日本」というキャッチフレーズをもじっています。

↓↓↓

今日、ちょっと手直ししてみました。

今、読み返すと、枚数限定っていうキマリ事もあり(言い訳)、

オチがうまくまとまってないっていうのもあるし、

地球をないがしろにし過ぎ、って事を言いたかったんだけど、

結局何が言いたいんだ~~ってジレンマも多少。

うまく伝えきれてないんだろうねぇ。

難しいですなぁ~~。


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コメント 2

shaa

しゅごいね~!(☆。☆)キラキラキラキラ・・・・

創作モードをキープするのって難しい。
仕事で疲れ果てて、時間だけが過ぎて。。。
だから、このブログみてちょっと嬉しい感じがした。(^ ^

by shaa (2009-07-19 00:18) 

sovaうさぎ

書くのは楽しいけど、思う通りに書けないよねぇ~
力不足でやんす~~
ふむ~~
by sovaうさぎ (2009-07-31 16:47) 

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